歯を抜くだけで入院という感覚はなかなか受け入れ難いかもしれません。しかし、たかが歯、されど歯なのです。
親知らずも普通に生えている場合なら入院も必要ないかもしれませんが、横に寝ている場合や顎の骨の中に埋まっている場合は、患歯・
歯根が
下歯槽神経・下歯槽動脈という大切な神経・動脈に近接していることが多く、そうした神経・動脈を守るために顎の骨を削合して歯を割って少しずつ摘出しなければならないのです。そうした処置の場合、手術は1時間以上の長時間に及ぶことがあり、意識下で患者さんが口を開け続けることはかなり困難ですから、手術の安全・患者さんの体への負担を軽減する目的で全身麻酔での手術をすすめる場合が多いです。
全身麻酔というとなんだか仰々しく聞こえるかもしれませんが、静脈内にウトウトと眠る薬を注入する形の
麻酔ですので、手術が終われば目が覚めるように
麻酔医が薬を調節し、実際目が覚めた状態で帰室していただく場合がほとんどだと思います。
神経の麻痺についてはおそらく担当医からも話があったと思いますが、術後、稀に症状の出る方はいます。そのため、できるだけそのリスクを避ける目的で
CT撮影をし、
根尖と
下歯槽神経・動静脈との関係を精査するのです。
今回手術を見合わせたとしても、その歯と神経の位置関係は変化ありませんし、高齢なればなるほど手術は難しくなり、骨を削合する量も増えていきますので、術後の出血するリスクも高くなります(骨を削るということは、骨の中にある
骨髄を削ることですから、
骨髄の中にある小さな血管を傷つけますので骨を削れば削るほど出血します)。今手術ができる状況であれ
ば、受けられることをお勧めしたいですが、ただし、術後顔はかなり腫れますし、口も開きづらくなりますので、冠婚葬祭や大事な用事がある場合は日を改めたほうが良いと思います。
最後に私が所属していました京都大学では、移植治療が盛んに行われていますが、この移植の前に必ず
口腔外科での診察があります。
親知らずが残っているかどうかを確認するためです。
親知らずは歯の中で一番ばい菌に感染しやすく、不潔だと言われています。その
親知らずが残っている状況で移植手術を受ければ、移植後の免疫抑制剤の影響で
親知らずに潜伏していたばい菌が増殖し、移植自体を台無しにするのです。ですから、移植チームはこの
親知らずがあれば手術は中止にします。
たかが歯されど歯なのです。担当医ともう一度自分の不安について正直に話をして判断してください。